「やろう」と決めた直後に、手が止まる

経営管理を整えようと決めた経営者から、よく似た相談を受けます。いざ始めようとすると、やることがあまりに多くて手が止まってしまう、というものです。

本業の製造や販売、数年前に始めた別事業、部門ごとの採算、案件別の管理。数字にすべきものを数え上げていくと、きりがありません。全領域で100点の構想を最初に作ろうとするほど、着手は遠のいていきます。

利益を増やすために始めたはずの取り組みが、構想の重さで止まってしまう。これは意欲の問題ではなく、始め方の問題です。

経営管理は、「される側」にとって面倒なもの

もう一つ、見落とされがちな事実があります。経営管理は、管理される側から見れば、まず面倒なものだということです。

集計の手間が増え、報告の様式が増え、会議で説明を求められる。しかも、自分に関わる数字を他人に見られることは、誰にとっても心地よいばかりではありません。数字が良ければまだしも、悪ければ責められるのではないか、評価に使われるのではないか。そう身構えるのが自然です。

この状態で「全社一斉に、すべてを見える化する」と宣言すれば、現場の抵抗は最大になります。範囲が広いほど巻き込む人が増え、身構える人も増えるからです。仕組みを作る前に、協力が得られなくなります。

いきなり評価につなげない。目的設定が先です

だからこそ、最初に決めるべきは管理項目の一覧ではなく、目的です。それも、経営者だけが納得する目的ではなく、メンバーが納得できる目的です。

たとえば、「もっと利益を出すためのヒントが欲しい」「こういう仮説があるが、今は感覚でしか動けていない。数字で確かめたい」。こうした目的なら、数字を見ることは詮索ではなく、現場の仕事を良くするための材料になります。

逆に、導入の初手で評価基準に直結させるのは避けるべきです。数字を出せば査定に響く、と受け取られた瞬間に、数字は守りの道具になり、正直な情報が上がってこなくなります。まずは、経営管理に取り組む意義や効果をメンバー自身が実感できる場面を作る。評価への接続は、仕組みが信頼されてからで十分です。

重要な領域から始めると、合意も成果も早い

進め方としては、経営判断への影響が大きい領域を一つか二つ選び、そこから始めることをお勧めします。理由は三つあります。

第一に、合意が得やすいことです。重要な領域は、経営者もメンバーも「ここは数字で見たい」という感覚を共有しやすく、目的への納得が得られます。

第二に、成果が早く出ることです。影響の大きい領域なら、数字を見始めてすぐに「ここに手を打てば利益が変わる」という発見が生まれます。この最初の成果が、「経営管理は役に立つ」という実感をつくります。

第三に、次に進みやすいことです。一つの領域で効果を実感したメンバーは、次の領域への展開に協力的になります。全社一斉に始めるより、結果として早く広がります。

重要でないものは、一旦外して構いません

範囲を絞るとき、必ず出てくるのが「あの事業はどうするのか」という問いです。結論から言えば、重要でないものは、一旦管理対象から外して構いません。

支援先の経営者と管理範囲を整理していたとき、ある小さな事業が対象から外れていました。理由を尋ねると、こう返ってきました。

本業となる事業と関連性が薄く、また極めて規模も小さいため、今回は管理対象に含めていない。

本業との関連性が薄く、規模も小さい。つまり、管理してもそこから生まれる経営判断がほとんどない事業です。ただでさえ現場にとって面倒な経営管理を、判断につながらない領域にまで広げるのは悪手です。手間だけが増え、肝心の重要領域に向ける時間と協力を削ってしまいます。

外すことは、切り捨てではありません。規模が育ったり、本業とのつながりが生まれたりすれば、そのときに対象へ加えればよい。「今は見ない」という時間軸の判断です。

小さく始めて、実感とともに広げる

経営管理は、最初の構想の完成度で決まるものではありません。重要な領域で小さく始め、メンバーが納得できる目的を置き、早く成果を見せる。その実感を土台に範囲を広げていく方が、結果として速く、深く根づきます。

あなたの会社で、まず数字で見るべき領域はどこでしょうか。そして、今は見なくてよい領域はどれでしょうか。その一つ目を選ぶところから、経営管理は動き出します。


※ 本記事は実際の支援案件をもとにしていますが、企業の特定を避けるため、企業名・個人名を伏せ、日付や部門構成などの属性は変更しています。経営管理上の構造や判断の内容は、実際の事例に基づいています。

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