「仕事はある。でも現場が回らない。だから、これ以上受注を増やせない」 製造業の経営者から、こうした相談を受けることがあります。 このとき、最初から人を増やすことが正解とは限りません。現場が忙しい原因が、加工そのものではなく、段取り・待ち・探す・確認する・やり直すといった時間にあるなら、人を増やしても同じ非効率が人数分だけ増える可能性があるからです。 実際、ある製造業では受注自体はある一方、現場の連携が悪く、仕事が滞留していました。作業時間は紙に記録していましたが、記録後は担当者が手入力しており、経営判断に使えるデータにはなっていませんでした。 そこで最初に考えたのは、大掛かりな生産管理システムではありません。 **「利益を増やすために、まず何の時間を測るべきか」**でした。
機械が加工している時間より、人が変えられる時間を見る
製造現場では、加工時間を短くすることに目が向きがちです。しかし、加工条件が決まり、機械が自動で動いている時間は、人の工夫だけでは大きく変えにくい場合があります。 一方で、段取りには人の判断や動きが多く含まれます。
- 図面や工具を探す
- 材料を準備する
- 機械をセットする
- 前工程から情報を引き継ぐ
- トラブル後に復旧する
- 次の仕事へ切り替える こうした時間は、やり方によって差が出ます。 つまり、改善余地が大きいのが段取り時間なら、最初に測るべきKPIも段取り時間です。 経営管理では「取れる数字を全部取る」のではなく、経営者が変えたい結果につながる数字から取ることが重要です。
「忙しい」を数字にすると、増員すべきかどうかも変わる
たとえば、現場から「人が足りない」という声が上がっているとします。 しかし、段取り時間を記録してみると、同じような仕事でも担当者や日によって時間が大きく違うかもしれません。 その場合、課題は単純な人数不足ではありません。 標準的な段取り時間を把握し、実績との差を見ることで、少なくとも次のような切り分けができます。
- 本当に仕事量がキャパシティを超えている
- 特定工程だけがボトルネックになっている
- 担当者によって段取り時間に差がある
- 特定の製品や図面だけ時間がかかる
- トラブルや手戻りが時間を食っている
- 前後工程の連携で待ち時間が発生している ここまで分かれば、「もう一人採用する」のか、「段取り方法を標準化する」のか、「仕事の流し方を変える」のか、打ち手が変わります。 人を一人増やす判断と、既存メンバーの生産性を上げる判断では、会社に与える影響は大きく異なります。
紙で時間を取っていても、経営管理になっているとは限らない
現場では、すでに開始時刻・終了時刻を書いている会社もあります。 問題は、その数字が経営判断までつながっているかです。 紙に書く → 誰かが入力する → Excelに残る、で止まっているなら、「記録」はしていても「管理」にはなっていません。 たとえば指図書のバーコードを読み取るだけで、
- 誰が
- どの仕事を
- 何時に開始し
- 何時に終了したか を蓄積できれば、担当者別・製品別・工程別の実績時間を比較できます。 さらに受注金額や粗利とつなげれば、単なる時間管理ではなく、どの仕事に時間を使うと利益が残るのかまで見えるようになります。 重要なのはバーコードという技術ではありません。入力の負担を増やさず、意思決定に必要なデータを残せる仕組みにすることです。
最初から全部測らない
ここでよくある失敗は、せっかく仕組みを作るならと、稼働時間、停止時間、不良、歩留まり、設備効率、担当者評価などを一気に取ろうとすることです。 項目が増えるほど現場入力は重くなり、結局続かなくなります。 経営管理の仕組みを導入するときは、数字の整備優先順位を「その数字がどれだけ頻繁な意思決定を変えるか」で決める方法があります。 今回のように、毎日の受注量や現場のキャパシティに悩んでいるなら、まず段取り時間を取る。そこで差が見えたら理由を記録する。必要になった段階で、品質や停止時間など次の数字を追加する。 この順番なら、データを集めること自体が目的になりません。
生産性改善は「もっと頑張れ」では進まない
現場の生産性が落ちると、「もっと連携してほしい」「段取りを早くしてほしい」と言いたくなります。 ただ、それだけでは改善したかどうかを確認できません。 経営側がやるべきなのは、現場を細かく監視することではなく、改善すべき場所が見える最小限の数字を作ることです。 たとえば、まずは次の5点だけでも十分です。
- 改善したい結果は何か(受注量、粗利、残業、納期など)
- その結果のボトルネックとなっている工程はどこか
- その工程で、人が変えられる時間は何か
- その時間を負担なく記録できるか
- 毎週または毎月、実績を見て何を決めるか 数字を集める目的は、現場を評価することではありません。 利益を増やすために、どこを変えればいいかを判断できるようにすることです。 受注はあるのに現場が回らない会社ほど、人員不足と決めつける前に、一度「時間がどこへ消えているか」を見てみる価値があります。 ※この記事は実際の支援事例をもとに、企業・個人を特定できないよう業種の細部、数値、時期などを変更・省略しています。