良い仕組みを提案したのに、なぜか進まない

経営者の方から、こんな相談をよく受けます。外部の専門家に入ってもらったり、自分なりに新しい管理の仕組みを考えたりして、これで数字が見えるようになるはずだと現場に提案してみた。ところが、思うように動いてもらえない。長く経理を担ってきた担当者はどこか浮かない顔をして、幹部からも積極的な協力が得られない。半年ほどすると、その話はいつのまにか立ち消えている。

表立って反対されるわけではありません。会議の場では「わかりました」と言ってもらえる。それでも実務は元のやり方のままで、新しい帳票は埋まらず、決めたはずの運用が根づかない。強く押せば角が立ち、放っておけば進まない。多くの経営者が、この静かな停滞に手を焼いています。

仕組みの中身が間違っていたわけではありません。むしろ、正しいことのほうが多いのです。それでも前に進まない。この行き詰まりは、仕組みの設計とは別のところで起きています。

「足りない」という言葉が、人を止める

新しい管理の仕組みを入れるという場面は、現場の側から見ると景色が違います。経営者にとっては前向きな改善でも、これまでその業務を担ってきた人にとっては、自分のやり方が足りなかったと言われているように聞こえます。

とくに、長年その会社の数字を回してきた担当者ほど、そう受け取りやすいものです。日々の入金の管理も、部門ごとの数字の把握も、その人なりに手を尽くしてきました。そこに「経営管理ができていない」という総括が届くと、たとえ事実の一部であっても、これまでの積み重ねを否定されたと感じます。自分の仕事を否定する相手に、人は協力しません。

ここで見落とされやすいことがあります。多くの会社では、現場の管理そのものは決して悪くない、という点です。個々の担当や部門の単位で見れば、数字はきちんと動いている。足りていないのは、それらを束ねて会社全体の経営判断に使う、統合の機能のほうです。この二つはまったく別の話なのに、「経営管理がない」という一言でひとまとめにされてしまいます。

現場を認めたうえで、足す

以前、ある会社の支援に入ったときも、同じ構図がありました。経理を担ってきた方の仕事は、細部まで見れば十分に行き届いていました。問題は、その一つひとつが個別に完結していて、会社全体を見渡す形につながっていなかったことです。

このとき、現状をどう伝えるかを、私は意識して選びました。この判断について、私はこう考えています。何が欠けているかを分析することと、それを誰にどう伝えるかは、別の層の問題として使い分けるべきだ、ということです。分析の中身は変えられません。ただ、伝え方は選べます。

そこで選んだ総括は、「個別の管理は優れています。欠けているのは、それを束ねる機能のほうです」というものでした。担当者のこれまでを事実として認めたうえで、足すべきものだけを足りないと言う。協力してくれている人の立場を守りながら、必要な変化を進める。この二つは両立します。

大切なのは、肯定が事実に基づいていることです。実際には粗いのに「よくできています」と持ち上げれば、見え透いたお世辞になり、かえって信頼を失います。現場が積み上げてきたものの中から、本当に評価できる部分を正確に見つけて、言葉にする。そのうえで、足りない部分を静かに足していきます。

このひと言の置き方を変えるだけで、担当者の表情は変わりました。自分の仕事が守られていると感じられると、人は次の一歩に前向きになります。束ねる仕組みをつくるという新しい作業も、これまでの延長線上の話として受け止めてもらえました。押して動かすのではなく、認めることで動いてもらう。急がば回れのようですが、結果としてはこのほうが早く根づきます。

中身が正しいだけでは、変化は起きない

ここから引き出せる示唆は、経営管理に限りません。会社に新しい仕組みを入れるとき、私たちはつい中身の正しさばかりに気を取られます。どの数字を見るべきか、どんな帳票をつくるべきか。それはもちろん重要です。ただ、その仕組みを実際に動かすのは現場の人であり、人は正しさだけでは動きません。

とりわけ、これまでのやり方を担ってきた人を巻き込めるかどうかで、仕組みが根づくかどうかが決まります。否定から入れば、どれだけ設計が優れていても立ち消えます。認めることから入れば、同じ内容でも前に進みます。伝え方は、仕組みの一部です。

もう一つ意識したいのは、何が欠けているかを見極める作業と、それを誰にどう伝えるかを決める作業を、頭の中で切り分けておくことです。この二つを混ぜてしまうと、遠慮して問題を小さく見せたり、逆に正しさを優先して相手を追い詰めたりします。中身は妥協せず正確に。伝え方は相手との関係を守る形で。この使い分けができると、厳しい見立てほど、かえって受け入れてもらいやすくなります。

改善が止まっているとき、多くの経営者は仕組みの中身を疑います。もっと良い管理の形はないかと、探し始めます。けれども止まっている原因は、中身ではなく、これまで会社を支えてきた人たちの歩みを、認められているかどうかにあるのかもしれません。

新しい取り組みが途中で止まったとき、その理由を、仕組みの側だけに探していないでしょうか。


※ 本記事は実際の支援案件をもとにしていますが、企業の特定を避けるため、企業名・個人名を伏せ、日付や部門構成などの属性は変更しています。経営管理上の構造や判断の内容は、実際の事例に基づいています。

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