受注をこなしているのに、利益率だけが落ちていく
ある製造業の会社で、こんな相談を受けました。 受注は途切れていない。 現場も休みなく動いている。 それなのに、利益率だけがじわじわ落ちている。 人を増やしたわけでも、値下げをしたわけでもありません。 それでも決算に残る利益が、去年より薄くなっていました。 社長にも、その理由がうまく言葉にできずにいました。 数字を見ていくと、原材料費率が全体で50%近くまで上がっていました。 ところが製品ごとに分けると、ある主力製品だけは原材料費率が22%に収まっています。 つまり、製品単位で見れば十分に儲かる商品はある。 それなのに、会社全体では利益が残らない。 問題は、個々の製品の採算だけではなく、「何をどの順番で作っているか」にありました。 社長の言葉を借りると、「注文が来たものを、あれもこれも全部作っている」状態だったのです。
忙しいのに利益が増えない理由
受注を断らずに全部こなすことは、一見すると正しい判断に見えます。 売上は増えますし、現場も手が空くことなく動きます。 実際、この会社の現場も忙しく回っていました。 しかし、加工設備には処理能力の上限がありました。 ある工程が1つの製品を通している間、他の製品はそこに流せません。 設備が空くのを待つ製品が、常にどこかで発生していました。 ここで大事なのは、失っているものが材料費だけではないという点です。 稼ぎの薄い製品を作っている時間は、その分だけ稼ぎの厚い製品を作れなかった時間でもあります。 設備が動ける時間は、1日のなかで決まっています。 その限られた時間を利益の薄い仕事に使えば、利益の厚い仕事に回せる時間は減ります。 忙しさが増えても利益が増えない原因は、ここにありました。 問題は受注量ではなく、限られた時間の使い方だったのです。
見るべき数字は「利益率」だけではなかった
打ち合わせで社長は、「利益率の高い製品に絞り込みたい」と話されました。 方向としては自然です。 私も、儲かる製品に集中する必要があると考えていました。 ただし、そこで一度立ち止まりました。 「利益率が高い」と言ったときに、何を基準に高い低いを決めるのかが、まだ決まっていなかったからです。 たとえば、製品Aは1個あたりの粗利が大きいものの、設備を長い時間使うとします。 一方で、製品Bは1個あたりの粗利は小さいものの、短い時間で仕上がるとします。 1個ずつ比べれば、製品Aのほうが儲かって見えます。 しかし、設備の時間が足りない会社では、同じ1時間でどちらが多く粗利を生むかで判断が変わります。 1個あたりでは勝っている製品が、1時間あたりでは負けることがあるのです。 つまり、この会社に必要だったのは、単に利益率の高い製品を選ぶことではありません。 ボトルネックになっている工程の時間を、どの製品に使うべきかを決めることでした。
「1個あたり」ではなく「1時間あたり」で並べ替える
判断のものさしを、1個あたりの粗利から、ボトルネック工程の1時間あたり粗利に替える。 これが今回の打ち手でした。 やることはシンプルです。 まず、製品ごとの粗利を正しく出します。 材料費だけでなく、外注加工費や乾燥にかかる費用など、製品によって変わる費用も拾います。 次に、各製品がボトルネック工程をどれだけ使っているかを測ります。 そして、粗利をその時間で割ります。 すると、「限られた1時間で、どの製品がいくら稼ぐのか」が見えてきます。 この数字が出ると、作る順番を感覚ではなく数字で決められます。 自社で作るべきものと、外注に回すべきものの線引きもしやすくなります。 「これは儲かりそう」という印象ではなく、「制約の1単位あたりでいくら稼ぐか」で判断できるようになるからです。 会社としては、製品別の変動費と工程別の所要時間を集めることを次の宿題にしました。 まずは、作る順番を決めるためのものさしを持つところから始めることにしたのです。
TOC(制約理論)で見ると、考え方は整理しやすい
この考え方は、TOC(Theory of Constraints/制約理論)と重なります。 TOCは、会社や工場全体の成果は、もっとも能力が足りない一点、つまり制約によって決まると考える見方です。 どれだけ多くの工程が順調でも、全体の流れを止めている工程が1つあれば、生産量や利益はそこに引っ張られます。 この会社の場合、その制約は加工設備の時間でした。 だから見るべき問いは、「どの製品が儲かるか」だけではありません。 「限られた設備時間を、どの製品に使うと一番利益が残るか」です。 TOCの言葉でいえば、まず制約を見つける。 次に、その制約を最大限に活かす。 今回の判断は、その考え方を現場の製品別採算に落とし込んだものだと言えます。
制約がある会社は、そこを基準に利益を見る
これは製造業だけの話ではありません。 設備の時間、職人の手、診療のいす、店舗の席数、担当者が動ける時間。 会社の中に「これ以上はすぐに増やせないもの」が1つでもあれば、同じ考え方が当てはまります。 利益は、1件あたりや1個あたりで見ると判断を誤ることがあります。 制約になっているものの1単位あたりで、いくら稼いでいるか。 この見方に切り替えると、一番得に見えていた仕事が、実は時間あたりでは損をしていた、ということも起こります。 受注を全部こなす前に、まず並べ替える。 忙しさではなく、限られた時間の使い方で利益は決まります。 あなたの会社で、いちばんの制約になっているものは何でしょうか。 その制約の1単位あたりでいちばん稼ぐ仕事から、順番に手をつけられているでしょうか。
さらに学びたい方へ
TOCや制約理論を体系的に学びたい方には、エリヤフ・ゴールドラットの『ザ・ゴール』がおすすめです。 小説形式で、工場の改善を通じて「ボトルネックを見つけ、全体最適で成果を上げる」という考え方を学べます。 古典的な本は、表面的なテクニックを集めた本よりも、時代に左右されにくい考え方が残っています。 流行の手法は環境が変わると使えなくなることがありますが、制約を見つけて全体の成果を高めるという考え方は、業種や時代が変わっても応用しやすいものです。 じっくり読み込み、自社の現場に置き換えて考えることで、再現性のある改善につながりやすくなります。 製造業の話として読めますが、サービス業、プロジェクト管理、営業活動にも応用できる内容です。 まずは難しい理論としてではなく、「自社の成果を決めている一番細いところはどこか」を探す読み物として読むと、現場の数字を見る目が変わります。
※ 本記事は実際の支援案件をもとにしていますが、企業の特定を避けるため、企業名・個人名を伏せ、日付や部門構成などの属性は変更しています。 経営管理上の構造や判断の内容は、実際の事例に基づいています。 株式会社シザコンサルティングでは、中小・中堅企業の経営管理の仕組みづくりを支援しています。 受注はこなしているのに利益が思うように残らない、という状態に心当たりのある方は、無料相談をご利用ください。