数字はあるのに、経営判断に使えない会社

経営管理のご相談をいただいて現場に入ると、事前に社長から聞いていた話と、実際に見える景色が違うことがよくあります。

社長は「うちは管理ができていない」と言う。 ところが現場を見ると、そんなことはない。

品目ごとの採算管理表が作られている。担当者別の数字も出ている。無駄な費用がないかという検証も、きちんと行われている。担当者は優秀で、自分の持ち場については驚くほど細かく把握している。

では社長の認識が間違っているのかというと、それも違います。 社長が感じている「わからなさ」は本物です。

このズレは、どこから来るのか。

問題は「数字がないこと」ではない

多くの場合、数字は存在しています。むしろ、かなり細かく存在している。

問題は、その数字が経営判断とつながっていないことです。

具体的には、こういう状態になっています。

経営から見たときに、なぜその結果になったのかを掘り下げられない。全社の利益が計画に届かなかったとして、どの事業の、どの製品の、どの工程がその要因なのかを追えない。数字はあるのに、上から下へ降りていけない。

逆方向にも、つながっていません。現場では作業レベルの指標が細かく管理されている。しかしそれが、どの事業に人を割くべきか、どこに設備を入れるべきかという、経営資源の配分の判断につながらない。下から上へも、上がっていかない。

上下がつながっていないから、数字は毎月出てくるのに、打ち手が決まらない。

細かすぎることも、問題になる

「もっと細かく管理すれば良くなる」と考えられがちですが、実際には逆のことも起きます。

品目が数百、担当者が数十、それぞれに数字が並んでいる。一つひとつは正確です。しかし社長がそれを見ても、会社として何が起きているのかは読み取れません。

必要なのは、意味のある単位でくくることです。事業別なのか、製品群別なのか、顧客別なのか、拠点別なのか。経営として判断したい単位でセグメントを切って、そこで傾向が見えるようにする。

括られていない数字は、どれだけ精密でも経営には使えません。

「月次で見る」という前提を、疑ってみる

もう一つ、見落とされやすい論点があります。時間軸の取り方です。

たとえば、人時生産性を見ている会社があるとします。働いた時間あたり、どれだけの生産高を上げたか。これ自体は良い指標です。

ところが、これを改善しようとした瞬間に困ります。

数字が良かった日と悪かった日で何が違ったのかを知りたい。しかし手元にあるのは月次の数字だけ。月単位で平均されてしまうと、良い日も悪い日も混ざって、何が要因だったのかが見えません。

本当に改善したいなら、一日ごと、場合によっては時間ごとに見る必要があります。

なぜ月次になってしまうのか。多くの場合、損益計算のリズムに引きずられているからです。費用は月次で締める。だから管理も月次。この流れで、なんとなく月次が当たり前になっている。

しかし、目的が変われば、見るべき時間軸も変わります。

四半期単位でビジネスが動くのであれば、四半期のPDCAで十分な領域もあります。逆に、月次で見てもほとんど意味がない指標もある。日次でなければ改善につながらないものもある。

会計のリズムと、経営管理のリズムは、必ずしも同じである必要はありません。

経営管理は、機械的には決まらない

ここまで書いてきたことは、突き詰めると一つのことに行き着きます。

経営管理は、型どおりに作れば機能するものではありません。

どの単位で括るか。どの時間軸で見るか。どこまで細かくするか。これらはすべて、「何を判断したいのか」から逆算して決まります。

同じ製造業でも、受注構造が違えば見るべき単位は変わります。同じ指標でも、改善したいのか、状況を把握したいのかで、必要な粒度は変わります。

一般的なフォーマットを持ってきて当てはめても、たいてい機能しません。作った資料が使われないまま形骸化していくのは、多くの場合これが原因です。

経営管理の設計は、思っている以上にクリエイティブな仕事です。自社が何を決めたいのかを主体的に考えて、そこから逆算して初めて、数字が行動と改善につながります。

なぜこうなるのか

念のため書いておくと、これは誰かの能力不足ではありません。

会社が小さいうちは、この問題は起きません。社長が現場に近く、個別の数字を直接見て、頭の中でつなげられるからです。現場の数字と経営判断が、社長という一人の人間の中で結びついている。

しかし部門が増え、拠点が増え、扱う商品が増えていくと、その結びつきが追いつかなくなります。現場は現場で数字を作り、経営は経営で結果を見る。その間をつなぐ人がいない。

会社の成長に、管理の仕組みが追いついていない。それだけのことです。

自社はどうか、と思ったら

もし自社について「管理ができていない」と感じているなら、数字の有無ではなく、つながりを確認してみてください。

全社の利益が計画からずれたとき、その要因をどこまで掘り下げられるか。 現場で管理している数字は、人や設備をどこに配分するかの判断に使われているか。 社長が見ている単位は、傾向が読める粒度になっているか。 改善したい指標が、改善につながる時間軸で取れているか。

どこかで切れているはずです。そして切れている場所によって、必要な打ち手はまったく違います。

数字がないなら、まず記録の仕組みから。 数字はあるのに経営とつながっていないなら、必要なのは接続の設計であって、現場をこれ以上細かく管理させることではありません。

多くの成長企業で起きているのは、後者です。


※ 本記事は実際の支援案件をもとにしていますが、企業の特定を避けるため、企業名・個人名を伏せ、業種や属性は変更しています。経営管理上の構造や判断の内容は、実際の事例に基づいています。

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