経営管理の相談をいただく中で、少し意外な悩みを聞くことがあります。管理帳票を整え、毎月の数字を出せるようにして、追いかける指標も決めた。仕組みとしては形になった。それなのに、肝心の利益は前の年とほとんど変わらない、というものです。
お金も時間もかけて整えたのに、業績が動かない。丁寧に整えた方ほど、その手応えのなさに戸惑っておられます。
仕組みを入れれば数字が良くなる、とは限りません
ここには、見落とされやすい前提が隠れています。管理の仕組みを入れれば業績が上がる、という考え方です。もっともらしく聞こえますが、仕組みそのものは数字を作りません。仕組みは、現場の行動が変わったときに初めて効いてきます。
指標を決めると、人はその数字を良く見せる行動を取り始めます。これは良い方向にも悪い方向にも働きます。受注件数を目標にすれば、件数は確かに増えます。ただし、利益の薄い案件まで一緒に増えることがあります。指標を置いただけでは、それが利益につながる保証はどこにもありません。数字を合わせること自体が目的になってしまう場面すらあります。
仕組みを入れたこと自体を成果だと考えてしまうと、投資は空振りしやすくなります。整った帳票の束が手元に残るだけで、利益は前の年のまま、という結果になりかねません。
「これを入れれば儲かるのか」と聞かれて
以前、ある会社で管理の仕組みづくりを進めていたときのことです。経営者の方から、これを入れれば本当に儲かるのか、と率直に問われました。
私はそのとき、自分がそれを言い切っていいのか迷いました。仕組みを入れれば業績が上がる、と断言するには根拠が足りない気がしたのです。そこで、こうした管理の手法が実際に業績へどう効くのかを、あらためて調べ直しました。
出てきたのは、必ずしも都合の良い結果ではありませんでした。同じような仕組みを入れても、成果が出る会社と出ない会社に分かれる。指標を強く追いすぎると、かえって現場の行動が歪む。そうした報告が少なくなかったのです。
自社の提案にとっては不利になりかねない内容でしたが、その調査結果はそのまま経営者の方にお渡ししました。都合の悪い部分を伏せて「入れれば儲かります」と伝える方が、その場はずっと楽です。ただ、それでは後で困るのは相手だからです。
道具を渡して終わりにしない
この判断について、私はこう考えています。
「求められているのは、経営管理の仕組みではなく、利益を上げたりキャッシュフローを改善したりという業績です。その点を考えたときに、自分自身が『制度を入れれば儲かる』と言い切っていいのか、という疑問が湧いたため、調査をし、その結果を先方にもお渡ししました。制度を入れればいい、ということではなく、業績を上げるためにはそれとセットでこういうことをしないといけない、ということをお示ししたいのです。」
経営者が本当に欲しいのは、きれいな管理帳票ではありません。手元に残る利益であり、回っていくお金です。仕組みは、そこへ届くための道具にすぎません。道具だけを渡して終わりにしないことが、支援する側の責任だと考えています。
入れる前に、問いを一つ入れ替える
「これを入れれば数字が良くなります」という説明を受けたときは、その一言の裏にある条件を確かめてみてください。多くの場合、効果は仕組み単体からではなく、仕組みと一緒に変える現場の行動から生まれます。ツールでも、管理の手法でも、外部の支援でも、この構造は変わりません。
導入を決める前に、問いを一つ入れ替えるだけで、投資の空振りはかなり防げます。「これを入れたら数字が良くなるか」ではなく、「数字が良くなるために、この仕組みと一緒に何を変える必要があるか」。この問いに具体的な答えが返ってくる提案は、信頼できます。答えが曖昧なまま「入れれば大丈夫」とだけ言う提案は、一度立ち止まって確かめる価値があります。
これからあなたの会社で入れようとしている仕組みは、何とセットになったときに、利益へと変わるでしょうか。
株式会社シザコンサルティングでは、中小・中堅企業の経営管理の仕組みづくりを支援しています。仕組みは整えたのに業績が変わらない、という状態に心当たりのある方は、無料相談をご利用ください。
※ 本記事は実際の支援案件をもとにしていますが、企業の特定を避けるため、企業名・個人名を伏せ、日付や部門構成などの属性は変更しています。経営管理上の構造や判断の内容は、実際の事例に基づいています。