売上は前の年より伸びています。受注も途切れていません。それなのに、決算を見ると利益が思ったほど残っていません。手元の資金が増えた実感もありません。こうしたご相談は、業績が悪い会社よりも、むしろ順調に見える会社から寄せられることがあります。

多くの場合、原因は個々の仕事そのものではなく、どの仕事にどれだけの利益があるのかが見えていないことにあります。

会社全体の数字は、平均でしかない

月次の試算表や決算書は、会社全体を合計した姿を映します。そこに出てくる利益率は、たくさんの案件を平均した値です。実際には、大きく儲かっている仕事もあれば、受けるほど利益を削っている仕事も混ざっています。平均で見ているかぎり、この差は互いに打ち消し合い、表には出てきません。

とくに見えにくいのが人件費です。材料費や外注費は案件ごとに紐づけやすい一方で、現場で働く人の賃金は、どの案件にどれだけ使われたかが記録されにくい費用です。ここを案件に割り振らないままだと、時間ばかりかかる仕事の不採算が数字に現れません。

一件ごとに利益を計算してみる

ある受注生産の会社で、案件ごとの採算を出す作業を一緒に行いました。やり方はそれほど複雑ではありません。一年間の現場の人件費を、その年の総作業時間で割り、一時間あたりの人件費を求めます。そのうえで、各案件にかかった作業時間を掛け、材料費と合わせて売上から引きます。こうすると、案件ごとの粗利と粗利率が並びます。

出てきた数字は、社長の肌感覚と食い違う部分がありました。単価が高く、短納期で割が良いと思われていた小口の仕事ほど、一個あたりにかかる手間が大きく、利益がほとんど残っていませんでした。逆に、まとまった数を長い納期で作る仕事のほうが、利益率は高く出ていたのです。

一番の得意先が、利益を圧迫していることもある

顧客ごとに並べ替えると、もう一つのことが見えてきました。取引額の大きい特定の一社を含めたまま全体を眺めると、その一社の傾向に会社全体の数字が引きずられてしまいます。その一社を外して計算し直すと、平均の景色はまるで変わりました。

売上の大きい顧客が、利益の面でも一番貢献しているとはかぎりません。上位の一部の取引先が利益の大半を生み、残りは薄い、という偏りは多くの会社に共通します。この偏りを知らないまま、大口だから大事にする、とだけ考えていると、忙しさのわりに利益が積み上がらない状態が続きます。

売上ではなく、一件ごとの利益で選ぶ

この会社について、私はこう考えています。利益は、どれだけ売ったかよりも、どの仕事を受けるかで大きく変わります。だからこそ、全体の売上や単価ではなく、時間という原価を案件に紐づけた一件ごとの粗利で受注を見直す価値があります。

すべての数字を精密にそろえる必要はありません。人件費をおおまかに時間で割り振るだけでも、儲かる仕事とそうでない仕事の輪郭は十分に見えてきます。その輪郭が見えて初めて、力を入れる仕事、単価を見直す仕事、依存を薄めたい顧客を、根拠を持って決められます。

あなたの会社で一番忙しい仕事は、一番利益を生んでいる仕事でしょうか。


※ 本記事は実際の支援案件をもとにしていますが、企業の特定を避けるため、企業名・個人名を伏せ、日付や部門構成などの属性は変更しています。経営管理上の構造や判断の内容は、実際の事例に基づいています。

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